筆が進んだら書く予定

幕間1ー悪華二輪ー
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日暮れの近い放課後、視聴覚室。
防音設備の整ったこの場所は秘密の会合をするのに適した場所である。

その教壇に眼鏡の少女が腰掛け、V字型に足を投げ出していた。
足先には靴も靴下も履いていない。血管がみえるほど白く透き通った裸足(らそく)である。

その投げ出した足先には二人の少女がひざまいている。
少女達はまるでそれが極上の甘露であるかのように、その指を丹念に舐(ねぶ)っていた。
その目は夢でも見ているかのように虚(うつ)ろで、顔は紅潮し、
恋人と秘密の逢瀬をしているかのように陶酔していた。
赤い林檎のような頬を汗が伝い、はだけた服の間へと流れていく。

それを見下ろして、眼鏡の少女はクスクスと嗤(わら)う。

「無様ね。本当に無様。
 ねえ?生徒会長さん
 魂を縛られる気分はどう?
 悔しい?怖い?それとも……気持ちいい?」

その声は幼さを残し、無邪気で、残酷な声だった。

眼鏡の少女は右足を舐める少女の首元を右足の甲で撫でる。
撫でられた少女は目を閉じ小さく官能のため息をついた。

「今戻った」

視聴覚室の出入り口が開き、
芯の通った、憂いを含む声が響く。
肩まで伸びた髪を手で払いつつ、部屋内の爛(ただ)れた状況を見つつ少女は顔をしかめる。

それを見て眼鏡の少女はクスクスと嗤う。

この眼鏡の少女と肩まで伸びた髪を持つ少女は、
この久守学園を内部から潰す為に送り込まれた暗躍者である。

二人とも、この学園の一年に在籍し、一般生徒の振りをしつつ、この数ヶ月で計画の地盤を固めてきていた。

邪(よこしま)な考えを持つ呪術同盟から選抜されたこの二人は、
学園を制圧するために特化した能力を取得している。

肩まで伸びた髪を持つ少女は
髪で隠れたうなじに、「脳喰らい」と呼ばれる妖怪を寄生させている。
人の劣等感から生まれた「脳を喰らうことでその人間の才能を奪う化け物」。それが「脳喰らい」だ。

彼女は脳喰らいの力により、人の体液を取り込むでその人間の才能を取り込むことができる。
唾液、血液、精液、愛液。
体液であれば何でもかまわないが、精液や愛液のほうが才能の吸収率は高い。

これを繰り返すことで
理論上は「一対一で敗北をしない最強の呪術師」になることができる。

名は能美玲(のうみれい)
整った顔立ちだが目つきが鋭く、男受けは悪い。

対して眼鏡の少女は、
女郎蜘蛛(じょろうぐも)と呪術師の合いの子である。

彼女は性的接触をした相手を意のままに操る力を持つ。
小さなスキンシップから始まり、口付けを交わし、性器をすり合わせ、
気づけばズブズブと沼に嵌ったように意のままに駒にされてしまう。

玲は個の強さに特化しているが、朱美は数の強さに特化している。
手駒が増えれば増えるほど、彼女は手に負えない。

名は明智朱美(あけちあけみ)。
あだ名はアケアケらしいが……そのあだ名を呼ぶ人間は既に彼女の駒になっていると見てよい。

「お前は……。享楽に耽(ふけ)るのも大概にしろ。目的を忘れるな」
「あら、レイちゃん。おかえりなさい」

朱美は上気した顔で艶っぽく笑う。

「ちゃんと仕事してるわよー。
 支配を深化(しんか)してより優秀なお人形にしてあげているのだから、これも仕事のうちよ」

指先が生徒会長の首下をつつと愛撫する。

「どう?あなたも混じらない?」
「馬鹿言え、お前の手駒になる気は無い」

玲にとって朱美の能力は天敵といってよい。
体液を摂取して才を奪おうにも、その接触で朱美に支配されてしまっては意味が無い。

「……ともかく、そろそろこの学園を乗っ取るぞ。最後まで気を抜くなよ」
「はいはーい」

下校を促すチャイムが響く中。
いつもと変わらない光景の中。
着々と日常を転覆させる計画は進んでいた。
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