EQ

「どうなされました?坊っちゃん。
 そんなところでたそがれて」

学校からの帰り道。
僕が公園のブランコにぼんやりと座り込んでいると
お手伝いロボットのキヨがバーニアをふかしつつ空から降りてきた。

「何か嫌な事でもありましたか?」

キヨは首をかしげて僕の顔を覗き込む。

「別に。なんにもないよ、キヨ」

「いえ、わかります。わかりますともこのキヨは!
 今の坊っちゃんには、何か不愉快な出来事があったに違いありません。
 ささ、どうぞお話ください、このキヨがカラっと解決してみせましょう!」

僕は一つため息をつくと、
スマートフォンをキヨに差し出す。

「EQテスト……」

「そうだよ」

「エロクオリティ……?」

「違うよ!」

「冗談でございます。
 エモーショナルインテリジェンステスト、
 自分の感情をコントロールする力のテストでございますね」

「そうだよ……」

「まあ、40点もあるじゃないですか!上出来ですよ!」

「200点満点なんだけど……」

「愚かな人間はこのような点数で人々を評価するのをやめ、
 優れた知性体である私たちアンドロイドに未来を譲るべきですね」

「このテストに価値が無いと言ってくれるのは嬉しいけど
 言い方が怖いよ……」

キヨは僕の隣のブランコに立つと、ゆらゆらとブランコを揺らす。

「キヨの言う通り。このテストで人の価値が決まるわけではないと思うよ……」

キヨはさらにキコキコとブランコを揺らす。

「でも、僕は気づいたんだ。
 『テストの結果通り、他の人より僕は感情をコントロールする力が弱い』って」

キヨはさらにブンブンとブランコを揺らす。

「他の人よりも、僕は社会生活に向いていない……。
 今でも、そしてきっと……これからも」

キヨは華麗にブランコから飛び立ち、砂煙を上げて数メートル離れた地面に着地した。

「見ましたか!坊っちゃん!私の華麗なジャンプを!」

「僕のはなしをきいてー!」

キヨはアハハと笑うと、僕の座っているブランコに足をかけゆらゆらと揺らす。

「坊っちゃん」

「……なんだよ」

キヨは目をつむり、キコキコとブランコを揺らす

「知っておりますとも、キヨは。
 坊っちゃんが人間のフリが苦手なのは知っております」

「……」

「坊っちゃん」

キヨは僕の顔を上から覗き込み、問う。

「人の心は難しいですか?」

一瞬、言葉に詰まる。

難しいよ。きっと、ずっと、これからも。
僕は人の心に苦しめられ続けるのだろう。

「……難しいよ」

「そうですか」

キヨは少し何かを考えているようだった

「では……」

「アンドロイドの心は易(やさ)しいですか」

これには、すぐに言葉が出た。

「アンドロイドの心は優(やさ)しいよ」

「そうですか」

キヨは嬉しそうに笑顔を見せる。

「まあ坊っちゃんは、人よりもアンドロイド寄りの性格ですからねえ」

キヨは嬉しそうにブランコをぶんぶんと揺らす。

「私たちが人にとって代わったとしても、坊っちゃんはVIPとして扱って差しあげますよお!」

キヨが高らかにそう宣言する。
同時に、未来のVIPである僕は慣性に導かれ、顔から地面にダイブした。